ただそこにいればいい、というのは誰かとても幸せな人が言う絵空事だ。あたしだったら足りなさすぎて(それはもう酸欠が如く)その人を求めに行くだろうから。みっともないほど、建前もなくして、ただひたすらに。それが恋というもので、人生で一番扱い辛いものだと思う。間違ってるのかな、と首をかしげることはもちろんある。けれど、けれど。信じているだけで救われる気がするのだから、これも不思議だ。


「承太郎」


お風呂上りなのか、タオルを首にかけている彼に声をかける。少しばかり濡れている短い髪がなんだか色っぽく思えた。(おかしいなぁ)返事もせず、ただこちらに振り向いただけの彼に知らずのうちに笑みが零れるのはきっと仕方のないこと。


「髪、まだ濡れてるよ」
「うるせぇ」
「風邪引いたらカッコ悪いでしょ。ほら、タオル貸して」
「お前…、いつの間に俺の親になったんだよ」
「親だったら近親相姦でしょ。せめて姉とか、妹とかにしてよ」
「脳みそ溶けてんじゃねーのか」


呆れたように言うくせに、素直にタオルを差し出してくる承太郎にくすくすと笑う。かわいいなぁ、と呟くと睨まれた。(こわいなぁ)わしゃわしゃと少しだけ硬い彼の髪を拭いていると、ピアスが刺してある形のいい耳が見えた。少しばかりの好奇心で、それに手を伸ばしたところで、腕を捕まれた。相変わらず、すごい勘と反射神経だ。承太郎は完璧に前を向いていたのに。(あは、本当に人間なのかな)


「何してんだ」
「ちょっとばかり、いい耳が見えたものだから」
「余計なことしてんじゃねェ。うっとおしい」
「あれ、無駄なこと嫌いだったっけ。承太郎」
「黙れ」


ぐ、と腕を引かれて、承太郎の背中に覆いかぶさる(といっても背中がでかいから、どちらかというとよしかかっている)感じになった。ちょうど、あたしの顔の横には承太郎の顔がある。視界の隅に緑色の瞳が見えて、きれいだな、と思った。


「じょーたろ」
「いいから、黙ってろ」


少しだけ、彼の方に顔を向ける。すると、承太郎はそれを待っていたのかそれともそうするのを分かっていたのか、そのままキスをしてきた。体勢的に、あたしがきついんだけど、そんなことはお構いなしらしい。彼らしいといえば、彼らしいのだけれど。掴まれていない方の手を承太郎の反対側の肩に置いた。それを感じて、どうやらあたしの体勢がきついのを悟ったらしく、何も言わずに(あえて言うなら少しだけ眉間に皺を寄せて)掴んでいた手を離し、こちら側に身体を向けたかと思えば、そのまま抱き上げられた。「うあ、」変な声出しちゃったじゃんか。承太郎のばか!そんな文句を言う前に(つまりはあっという間に)あたしは承太郎の右膝の上に座らされていた。…横座り?名前なんて正直どうでもいいのだけど、この体勢は、さっきとはまったく違う意味できつい。


「…承太郎って、無意識なわけですか」
「何言ってんだ」
「イーエ。なんでもありません!」
「……


ふ、と耳に息がかかる。(この人、本当に狙ってるんじゃないだろうな…!!)あまり呼ばないあたしの名前を呼んでいるあたり、なんだろうか、今日は発情期か何かだろうか。まさか!そんなことに思考を巡らせていることに気付いたのか、承太郎は不機嫌そうに「空気読め」と言った。まったくだ。そして次の瞬間には、再び唇を重ねられているのだけれど。先ほどよりも、全然安定した空間に、承太郎の体温に、あたしはゆっくりと身体の力を抜いた。ああ、やっぱり。承太郎とは一生離れたくない。


「すきだよ、じょうたろう」






この水銀はこわれている!




(080212//承太郎//頭がおかしいのはチャ子。カノたん勝手にデフォルト使いましたwwサーセンww)