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承太郎のベッドの上、二人で背中合わせの体勢で座り込む。ベッドの上だからといってやましいことが起こる仲でもないあたしたちは、互いに好きなことをしていたのだが、この季節の気候はめんどくさいという論議(というかあたしの独り言)になっていた。時折「ああ」とか「そうだな」とか明らかに生返事な承太郎に少しだけカチンときて、わざと間延びしたしゃべり方をした。 「まぁ承太郎はァ、いーっつも制服だからいいけどさァ」 「…喧嘩売ってんのか」 「まっさかー!」 そんな恐れ多いことするわけないでしょ。そう言って背伸びをすると、あたしの背もたれ代わりになっている承太郎が「うっとおしい。離れろ」と呻いた。聞こえないふりをして彼に体重をかければ、諦めたらしいため息をいつもの台詞が聞こえた。 「やれやれだぜ」 「承太郎、その言葉好きだよね」 「誰が言わせてると思ってんだてめー」 ええ?と凄みを聞かせた声が後ろから聞こえたと思えば、ずっしりと背中に重みがかかった。どうやら仕返しと言わんばかりに、承太郎が体重をかけているらしい。(なんてやつだ!)「ちょ、おもい、」なかなか潰れた声が出てしまった。それでもまだ体重をかけてくる承太郎の帽子を取り上げた。 「ってめ、何しやがる!」 「じょーたろーの帽子、げっとだぜ」 満足げな笑みを浮かべて彼の帽子を被る。いつの間にか背中からかかっていた体重は消えていた。(やったね)なんだかいい気分になってしまって、思い切り彼の背中によしかかった。そのままもう一度背伸びをすると、ふ、と背中を支えていたものが消える。否、承太郎がその場から離れたのだ。「っうお、」ぼすり、と頭がベッドの上についた。天井が見える。「やられたー」棒読みでそう言ったあたしに承太郎が反応した。 「いい加減にしとかねぇとおっかねーぜ。わかってんだろ」 ぎしり、とベッドが軋み、目の前に承太郎の顔が現れた。まるで押し倒されているようだ。(もう一度言うが、あたしと承太郎はそんな美味しい仲じゃあない)退いての意味を込めて両腕で彼の身体を押しても意味は成せなかった。相変わらずいいガタイしてやがるぜ!とかそんなことを思った。 「うわー、じょうたろーのばかー」 「まだそんな口叩けんのか」 「だって、こうなったからどうなるわけでもないしー」 「…ほーお、」 どうやら、てめーは俺を怒らせたようだな。そんな声が耳元で聞こえた。なんて重低音。だからといって、怒っているわけでもないようだった。「別に怒ってないじゃん」そう言おうとして、唇に温かい物が触れていることに気付く。しっかりと見開いた目に映ったのは、嘘みたいに綺麗な緑色。その中に黒が見えた。あたしの目の色だ。彼の手があたしの頭に伸ばされ、被っていた帽子がベッドから落とされた。瞬間、重ねている唇が更に深く重なった。シーツが擦れる音が遠くでしているような気になった。承太郎、と呼んだ名前はまるで赤ちゃんが喋った言葉みたいになって、うまく音にならずに終わった。それでもあたしが何を言ったのか分かったらしく、承太郎は少し唇が触れ合うくらいにまで顔を離して、「アホか。喋るときじゃあねーぜ」と呆れたようにふっと笑った。そのままの距離で、どこかぼんやりとしている頭でぼんやりと口を開く。 「……ちゅー、された」 「フン、無防備すぎるおめーが悪いだけの話だ」 「この、ばかたろう」 満足そう細まった綺麗な瞳を真っ直ぐ見つめることができず、横に逸らして「はじめてだったんだぞ」と小さく呟いた。それに承太郎は何の悪そびれた様子もなく「知ってる」とだけ言った。 「知っててこういうことしたの。ほんと信じらんない。かえせばか」 「誰が返すかよ、アホ」 それでも嫌な気持ちにならなかったのは、きっと承太郎の耳が少しだけ赤かったからだろう。 白いパレットは汚された (080325//承太郎//学生っぽい承太郎が書けて満足です。理不尽な彼が好き) |