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憎くて憎くて仕方がない奴がいる。そいつは絶対に、あたしが殺さなきゃいけない。あの悪魔はこのナイフで心臓を刺さなければ死なないのだ。そう思い続けて、どれくらいの時間が流れたのだろうか。あたしはやっとチャンスを手に入れた。目の前で武器も持たず微笑む悪魔に、やっと出会えた。そいつの忌まわしき名前は、六道骸。この世でもっとも汚らわしい言葉だ。(ああ、反吐が出そうだ!!) 「あんたを殺しにきた」 「そうですか」 「今すぐ死ね」 「くふ、できるものなら、どうぞ」 しばらく、何もしないでじっとしていますから、何処からでもどうぞ。そう言ってそいつはまったく余裕な表情で両腕を広げ、立ち上がった。見るからに丸腰のそいつを見て、一気に頭に血が上った。(舐めてンのか、このやろう)楽に殺してやらない、そう呟いた声に、六道骸はうっすらと笑った。「ああああああ!!」叫んで拳を振り上げる。女にしては力のあるあたしは、今まで喧嘩に負けたことはなかった。腕っぷしには自信があるのだ。綺麗な右ストレートが六道骸に入る。彼の顔が腫れ上がる。それでも、そいつはまだ笑っていた。(ちくしょう、ちくしょう!!)もう一度、拳を振り上げる。 「死ねっ、死ねっ!死ね、死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ねェ!!」 「く、っふふふ、くはははは、はっ!!いいですよ、いいですよ。もっと、もっと殴ってみなさい、僕を!!」 「っうあああああああああああ!!」 右の拳が痛くなれば、左を使った。両腕が痛くなれば、足を使った。両足とも使って痛くなって、とうとうタックルをした。ぼろぼろになって鼻血を垂れ流しているくせに、そいつはまだ笑っていた。全然痛くないとでも言いたげに、笑っていた。あたしの身体といえば、もしかしたらそいつよりもボロボロになっているかもしれなかった。はぁ、はぁっ!荒い息が静かな部屋に響く。あたしの息だ。それを嘲笑うようにして、六道骸が口の中に溜まっていた血を吐き、鼻血を拭って口を開いた。 「くふ、くふふふ…。気は済みましたか、紗代」 「っまだ、まだに、決まってるだろ…!!」 「ああ。けれど、きみはもう限界のようですね」 ぽたり、血が地面に落ちた。あたしの血ではなく、そいつの血が。それは鼻血だった。拭ったものの簡単には止まらなかったらしい。(ざまぁ見ろ)はぁ、はぁっ。まだ荒い息が続いている。そこでようやく気付いたのは、息を激しく吐き出し肺を動かしているのはあたしだけで、目の前にいる多大なダメージを受けたはずの六道骸は、息一つ乱していないことだった。(なんで、)そして、世界が回転して、気付けば目の前に赤と青があった。 「僕を殺しに来たのなら、どうしてそのナイフを使わないのですか?」 楽しげに楽しげにそいつは笑う。(悔しい、殺してしまいたい、今すぐ)ぎりぎりと噛む奥歯から鉄の味がした。ぽたり、ぽたり、唇に血が落ちる。多分こいつの鼻血だ。それに顔をしかめれば、また、六道骸が笑う。 「殺す気がないのなら、僕がきみを殺しますよ」 「ふざけろ、変態」 「くふふ、冗談に決まってるじゃないですか」 「こっちは本気だよ」 「おやおや、それは困りましたね」 僕はが好きなんですが。そう言った六道骸を、やっぱり殺したいと思った。 ひずんだ世界に落ちていく (080214//骸//色々失敗したくさいので今度書き直すかも) |