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くたり、とソファに身を預けて窓の外を見ていた。もうどれくらいこうしていただろうか。数える気も失せるその行為に溜息を吐く。彼はまだ来ない。ただぼんやりと雨が降り続く闇を凝視する。あの黒だって、きっと彼には勝てないのに。ソファから立ち上がり、窓に額を当てた。ひんやりとしたガラスの温度が肌に沁みこんだ。ふ、ともう一度外を見つめる。雨粒の中に、彼が見えたような気がした。 その後の行動は速かった。コートも傘も持たずに、無造作にサンダルを履いて外に出た。ザァザァと降り注ぐ水滴はまだつめたい。(春雨でもない)服に染み込み、肌を刺す水に身を震えさせることもなく、雨闇の中を走った。怖くはない。 こんなに必死に走ったのは、いったいどれくらい振りだろうか。ハァハァと荒くなる息は白を生み出し、黒の中に溶けていく。時折目に入る水滴は、まるで彼とあたしの差を広げるようで腹が立った。 「」 これはもしかして魔法だろうか。雨の雑音が全く耳に入らなくなった。彼があたしの名前を呼ぶ。ただそれだけで、闇がまるで無くなった。にこり、と微笑む彼に、あたしは皮肉ぶって口を開いた。 「遅い御着きで、骸様」 「くふふ、待たせてしまいましたか」 すいませんでした。ちっともそんなことを思っていない口ぶりで彼は言う。それさえも愛しく感じてしまうあたしは、とっくの昔から狂っている。(わかってる)「待ちました。とっても」そう呟くように言ったあたしに足は、がくがくと震えていた。走ったからだろうか、寒いからだろうか、彼が目の前に立っているからだろうか。理由は分からなかった。 「震えていますね」 「…骸様のせいです」 「ほう」 「本当に、遅いんですよ」 くすくすと笑う彼に、泣きそうになってしまった。泣いても意味はないのだけれど、泣きたくなった。ふと、すぐ近くに彼の気配を感じた。いつの間にか近づいていたらしい。「なんですか」可愛げもなくそう言ったあたしに、彼はいとおしそうに笑う。(そう見えただけなんて、そんなはずはない)もう一度、すいませんでした、と言った彼に手を伸ばす前に、あたしに手が差し伸べられた。 「」 貴女を攫いに参りました (080306//骸//すいまにあげる。) |