目の前は、黒だった。否、布一枚の向こう側が僅かに白く見えた。それでも、黒。ふと肌に滑り込む手は、革の手袋を嵌めているのがよく分かる。(こんなときに手袋なんてありえない、そう言えば不機嫌そうに細められる赤と青の瞳が想像できた)ハ、と漏らした息に後ろから笑い声が聞こえた。どうやら後ろにいるらしい。渇望して止まないあの人は。


「むくろ、さま、ぁ」
「くふ、なんですか。そんなに物欲しそうな声を出して、」


みっともない。楽しげな声が耳元に寄せられる。その音があたしの脳みそをぐっちゃぐちゃにかき回しているように思えた。とんだ幻術師だ(そんな彼に心を奪われてしまったあたしは、とんでもない愚か者)再びあたしの名前が呼ばれるかと思われたその声は、ちゅ、というリップ音をたててあたしの首筋に噛み付いた。


「っひ、ン!!」
「おやおや、どうしたんですか。ただ舐めただけですよ」
「や、ァ、むくろさまぁ、」
「ほう、嫌、ですか」


するり、と革の感触が太ももを撫で、乱暴な手つきで奥に侵入してきた。いくらかの愛撫により濡れているといっても、革の手袋を嵌めた指を受け入れることのできるほど、そこは潤っていない。「い、たいぃ」じわりと滲んできた涙と共にそう漏らせば「僕に嘘を吐いたお仕置きです」という抑揚のない言葉が返ってきた。怒らせてしまったらしい。


「あ、っああ、むくろ、さ、まァ!」
「まったく淫乱ですね。こんな酷いことをされているというのに」
「はぁ、んんッ!ご、っめんな、さ、いッ」
「駄目です。今日は、許しませんよ」


ぐい、と前髪を掴み上げられ、再び軽いリップ音と共に、何故か鼻先に唇を落とされた。なんてアンバランスなことをするんだろうか。前髪を掴み上げられているというのに、慈しむような優しいキスを鼻先にだなんて、骸様の考えていることが分からない。それでも、彼の瞳の色が見たくて仕方がなくて、思わず骸様に手を伸ばした。


「むくろ、さま、」
「…、僕がいつ手を伸ばしていいと言いました」
「っぅあ、あああッ」
「どうも、躾が足りなかったようですね」


ぎりり、と伸ばした両手を握られたと思えば、次の瞬間には敏感なそこを強く摘まれていた。あまりの強烈な快感に、身を悶えさせて背を仰け反らせれば、満足そうに骸様の唇が歪んだ気がした。けれど今のあたしに、彼の顔を見ることは許されないために、それが本当かどうかはわからない。(本当がどうかなんてそんなことは大した問題ではないのだから、別段気にすることもないのだけれど)


「さぁ、、」


そして再び掴まれた前髪に、今度はあたしの唇が歪んだ。






少女は狂気を慈しむ
(骸様こそがあたしのただ唯一の世界、あたしだけの世界)





(080328//骸//すいまへ。ちょっと不完全燃焼でサーセン!!)