彼の骨ばった細い綺麗な指先は、ひたりひたりと肌を這い回ってするりするりと優しく撫でる。目を細めればその感情の見えない仮面の下にある口元がにんまりと弧を描く。胸は高鳴って抑えられない、熱を持ち始める頬はどうしようもない、愛しさは止まらない。胸が高鳴るのは何かの間違いで、熱を持ち始まるのは彼の指先の温度のせい、愛しさが止まらないのはこの指先が愛しすぎるから。(ああ、答えになっていない)
「トルコさん」彼の名を呼ぼうとしたくせに、あまりにも弱弱しくて、どちらかというと呟いた方になってしまった。それでも彼は口を歪め、指先を肌に滑らせたまま「なんでぇ」と返事をくれた。


「あつい、です」
「ちょーどいいだろ」
「丁度いいなら、言いま、せん」
「俺ぁ、ちょーどいいんだがねぇ」


意地悪、と唇を尖らせば、彼は真っ赤な舌で自分自身の唇を舐めた。まるで獣の仕草だ。「誘ってんのかい」と耳元で艶かしく囁いた声が直接脳に響いて、ぐらり、と視界が歪んだ。意識が飛ばされそうになって、思わず彼の髪を掴む。黒い、短い、綺麗な髪。く、と耳元で低く笑った音がしたと思えば、はむ、と柔らかい唇が耳を食んだ。そのまま固まってしまったあたしが面白いのか面白くないのか、とりあえずもっと反応が見たいようで、耳の中に舌を入れてきた。ぺちゃり、卑猥な音が、入ってくる。


「っん、や、」
「んん?」
「やめ、や、やぁ…っ!お、おと、やだ、っ!」
「まだ反抗できんなら、いけんだろ」


なぁ、。さも当然のように彼は囁く。それは毒に良く似ていて、否、もしかしたら毒そのものかもしれない。彼を言葉で表現するなら毒だなんて、似合いすぎて笑えるくらいだ。彼が耳に悪戯をしかけている間にも、彼の指先はあたしの体を這い回る。衣服の中には入ってこないものの、際どいところに触れてくるその指に反応してしまう自分に少し嫌気が差しながら、塞がれていない両手で彼の体を押した。


「っどいて、ください…っ」
「…さぁて、どうしようかねぇ」


これ以上やると、俺も歯止めがかかんねぇしな。と呟く彼は、耳元にあった顔をあたしの目の前まで持ってきて、にんまりと笑った。指先は喉をなぞって、顎を掴む。先ほどよりも熱を帯びたように感じられるそれが唇をなぞったと思えば、間もなく空気が遮断された。近くにあった仮面は更に近くなり、熱い舌は無遠慮に口内を弄るために、口の端からはみっともなく唾液が零れ落ちる。それすらも熱く感じてしまい、びくり、と体が揺れる。どれくらい時間がたったのか、ちゅ、とわざとらしいリップ音の後に唇が離れる。てらてらと唾液で光る唇がいやらしい、とぼんやりした頭で思えば、彼も同じことを思ったらしく「やーらしいねぇ」とにやにやと笑いながら(けれどその声はいささか震えていて、情欲を押し込めているかのように聞こえた。気のせいかもしれない)親指であたしの唇を拭った。息遣いが荒いあたしの髪の毛を彼は撫でる。大きな手のひらだ。


「今度は、ちゃぁんと鼻で息しとけよ」
「…、おしえて、くれなきゃ、わかんない、です」
「、おま」


ふふ、と笑ったあたしに彼は悔しそうに口元を歪めた。ああ、愛しい。まだちりちりと燻る肌を疎ましく、愛しく、恋しく思いながら、今度はあたしが手を伸ばす。いやらしく光る彼の唇を、同じように親指で拭い、その親指を自分の唇へ。目が点になっているだろう彼を想像しながら、最後の仕返しに、とその親指をぺろりと舐めた。心なしか、甘く思えた。


「…覚悟は、できてんのかい」
「え、」


空気が変わった。より一層低くなった彼の声は、艶を増し、更に熱くなった彼の指先は、するりと頬を撫で付けた。ぐ、と顔が再び近づいたと思えば、彼の唇が綺麗な綺麗な、さっきのそれとは比べ物にならないくせに綺麗な弧を描いていることに気付く。そこで、やりすぎた、とようやく勘付くことができた。この人に挑発など、火に油もいいところなのに、と自分の行為を恨めしく思うもすでに遅し。 再び彼の唇に塞がれ、熱を持った指先に弄ばれるまで、あと8秒。






摂氏41℃の指先





(071111/土耳古/初なのにどうしようもなくエロスになるなんてこったい!)