「あんたが憎いだとか、殺したいだとか、そんなこと思ってない」
強い色を瞳に映して、俺を睨みつけながらその女は言った。
「嘘つけ。こんだけ殺気出しといて、何がだってんでぇ」
くつくつと俺は笑う。面白くて仕方ない。まったくもってこいつは、滑稽だ。
「殺気くらい出ても当然でしょ。あたし、あんたが嫌いだから」
「へぇ、」
興味深げに頷き、そいつに近づいた。じり、と石を踏みつけながら足音を出す。それでも、その女は未だ強い瞳でこちらを見上げて続けている。ああ、おもしれぇ。不思議と浮かぶ口元を気にもせず、女の顎をすくった。
「そんなら、試してやらぁ」
唇と呼ぶにはあまりにも醜いそれに噛み付いた。ああ、まずい。そう思っているし味だって何かが腐ったような感じがするくせに、俺の顔には笑みが広がっていった。女は依然と目を開けたままだ。至って冷静。なんつー女、また口角が上がる。緩く開いた口に舌をねじ込めば、少しばかり女の顔が歪んだ。それはもう、盛大に。俺は笑った。すると、ようやく女は俺の舌に噛み付こうとしてきたものの、指を三本そいつの口に突っ込んで、噛めねぇようにしてやった。指を入れたまま唇を離し、耳元で囁いた。
「やることが遅ェんだよ、てめぇは」
はなせ、そう動いたらしい口はあっけなく俺の指によって抑えられる。声にならない音が漏れるだけの喉に噛み付き、ちろり、と舐めた。少し汗ばんでてしょっぺぇ、まずい、きたねぇ。それでも顔が歪むことはない俺に、女は思い切り不快げに眉間に皺を寄せた。その瞳は、憎悪一色。く、と笑いを漏らし、喉元から顔を離してそいつを見上げた。
「なんだぁ?文句、あんのか?」
喋れない女に話しかける。どうにか俺の指に噛み付こうとているらしいが、俺の指は微動だにすらしない。人間の顎の力はさして強くねぇ上に、こいつは女。結果なぞ、試さずとも分かるほどだ。ただ、このままでは面白くもなんともねぇ。強く睨み付ける女に俺は囁いた。
「殺してやろうか」
ぎち、と歯が指に食い込む。なんだ、もっと力出るじゃねぇか、と呟くと、女は体を動かしなんとかこの状況から抜け出そうともがき始めた。ああ、やっぱこうじゃねぇとなぁ。なにかの茶番かとしか思えない女の行動に、俺は口元を今までにないくらいに歪める。
「俺に殺されるのが、悔しいんだよなぁ」
そう言って、指を離した。がちん!と勢いのある音がそいつの歯から聞こえた。ぎ、とこちらを睨み付けた女が、大声で叫ぶ。
「自惚れるな狂人風情が!!」
狂人、な。漏れる笑いを止めようともせずに、抜刀し、その女が何を言うよりも先に、そいつの右目に刀を突き刺した。ぐちゅり、と血潮が舞う。夜闇にすら映えるそれが、なんとも美しいと思った。そして、絶叫。どくどくと溢れ止まることを知らない右目から刀を抜けば、更に赤が飛び出した。右目を両手で押さえ、もだえるそいつは、さしずめ壊れかけた人形。息を荒くししゃがみこんだそいつの耳元で、再度囁いた。
「これでお前も、狂人の仲間入りだなぁ?」
聞こえていたか聞こえていなかったかは知らないし、知る必要もない。俺は笑いながらその場を後にした。耳に心地よい悲鳴とあいつの瞳を頭に残したまま。

掃き溜めのを殺してを産む



(071103/高杉/一方通行な高杉)