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日に日に血に塗れていく彼を見ていた。そのきれいな茶髪すら赤を被り、細胞が死んでばさばさになっ
た髪を切らなくちゃいけなくなったのは半年前のこと。そして髪が元に戻った頃には、彼が血を浴びる
ことはなくなっていた。それは決して、血を浴びるような行為をしなくなったわけではなく、血を体に浴びることがなくなっただけで。私はどうしようもなく悲しくなった。 「おかえりなさい、綱吉」 無表情にホームの扉を開けて入ってきた彼に笑いかける。「ずっと待ってたんだ。今日は綱吉が帰って くるって聞いたから」階段の手すりに座っていた私はそこから降りて彼に近づいた。まだ返答はない。 それでも、その瞳はちゃんと私を映していることがわかって、少しだけ安心した。 「綱吉、今日はね、おいしいケーキがあるんだ。山本が買ってきてくれたの。一緒に食べよう?」 ね、と彼を覗き込めば、僅かに彼の唇が動いた。「」その声は多少掠れていて、痛切に私の脳を 揺らした。(ああ、彼は、傷ついている)その暗い瞳が泣いている気がして、思わず彼を抱きしめた。 背が伸びたその体を、できるだけ強く。(もう背伸びだけじゃ、私は届かないけれど) 「大丈夫、大丈夫だよ。綱吉、あなたは綱吉だよ」 それ以外になにがあるっていうの。私はあなたが好きだよ。だから泣かないで、綱吉。その言葉が伝わ るように、彼の手のひらにキスをした。それを見て、綱吉は私の手を振り切った。その手をもう一度取 って、もう一度てのひらにキス。それを呆然と見ていた綱吉が緩く首を横に振ると、私は背伸びをして 手を伸ばした。両頬を包んで、しっかりとその瞳を見る。彼の瞳に私の瞳が映っているのがよく見えた 。 「好きだよ、綱吉」 彼の瞳が揺れる。少しずつ光を灯していく瞳をずっと見つめながら、時はぴたりと止まった。まるで動 いていないかのように思わせるそれを心地よく思う。(このままできるだけ、ずっとこのままでいてほ しいのに)そうして、彼が口を開いた。それを酷く名残惜しく思いながらも、じっと耳を傾けた。 「俺も好きだよ。」 その言葉と共に、彼の右頬に添えていた左手に、彼の右手が重なった。大きくて暖かいてのひらが、と てもいとおしく感じた。「綱吉」もう一度名前を呼んで、どちらともなく顔を近づけてキスを1つ。少 し顔を赤くしながらも微笑んでいる彼が「ケーキ、あるんだろ?」と私の手を掴んだ。繋いだ手に確かな温もりを感じれば「私、ミルクと一緒に食べようかな」という言葉が口から出ていた。あと少し身長 が伸びたなら、背伸びをせずに、彼にキスをしよう。 |